『声なき叫び』についての角田由紀子弁護士によるトーク概要レポート

koenakiこの映画から4年後にカナダは法改正した
 この映画は1978年に製作されていますので、今のカナダの話ではありません。当時、北米では女性たちが強姦法の改正運動をおこなっていましたが、多分、カナダではこの映画が大きな推進力になったのではないでしょうか。4年後の1983年に刑法の強姦に関する部分が根本的に改められました。この映画は強姦を女性の視点からリアルに伝えて、女性にとっていかにひどいものかを描き、胸に迫るものがあります。あまりの迫力に見続けられないという人もいました。この話はカナダの女性たちにとっては、歴史の一こまですが、今の日本では「そうだ」と女性たちが共感するのです。私たちにとっては今の話だ、ということを皆さんに、まず、伝えたい。

女性たちの運動が法改正を実現に
どうしてカナダやアメリカの女性たちは法律を変える事ができたのか。女性たちが<強姦とはどういうことか>をひるまずに正面から告発して、そのことが原動力となって法律改正が実現していったのではないか、と思います。
カナダの強姦法は、1892年(明治25年)制定のものでした。その後、1955年に改正されますが、この映画が描いているのは、1955年改正法の社会です。それが、今の日本とほとんど変わらないことにショックを受けます。カナダはもともとイギリスの植民地だったので、1892年法はその当時のイギリス法を受け継いだ古いものです。日本の刑法は1907(明治40)年に制定されたのですが、そのままずっと今日まで改正されていないのです。

カナダでは夫が妻を強姦しても犯罪ではなかったのですが(日本では今でも犯罪にならないというのが主流の考えです)、カナダの改正法では、配偶者の行為も犯罪ですし、強姦という言葉もなくなりました。現在では「性的暴行罪」と呼ばれています。強姦ではなく、性的暴行罪としたことで、審理の方法も変わりました。暴行への同意ということは考えられないので、被害者の言動が詮索され、被害者が裁かれることもなくなったのです。

日本ではこの映画はふるくない 強姦罪に関する部分は1907年のままずっと今日まで改正されてない
 日本は、強姦罪の扱い方をみても、国際的な基準からは遅れています。1907年のままですから。所謂先進国では、100年以上も昔の法律を使っているのは日本だけです。どうして、私たちはこんな時代遅れの、女性の人権を侵害している法律を変えることができなかったのでしょうか。日本では、1982年、この映画の上映運動があり全国で500か所以上自主的に上映がされたということです。そのあと、何が起きたのでしょうか。残念ながら、法律改正の動きに繋がらなかったわけですが、それはなぜだったのでしょうか。日本の刑法も少し改正されましたが、強姦罪に関してはその思想はそのままです。言葉遣いは少しかわりました。婦女子が女子になり、カタカナが平仮名になったくらいです。数年前に、刑が少し重くされましたが、強姦罪についての考え方には変化がありません。

 私たちの社会が、女性の性に関わる人権について、1907年のままであることを思い知らせてくれたのが、2013年5月13日以来の例の橋下発言です。あのような発言が堂々とできるということ、大きなメディアにのって拡散されるということは、<そうだ>と思っている人がいるからです。あんなことを言っても平気だと思っている人がいるわけですよ。彼がトーンダウンしたのは女性たちが抗議したからではなく、アメリカから言われたからでしょう。テレビのコメンテーター等の発言では「居酒屋のオジサン談義でなら許される」とか、橋下が「市長という公人の立場にいるからまずい」と言っているだけで、言った内容・その考え方そのものがマズイとははっきりと指摘していないのです。風俗発言についてもそうです。女性の性にかかわる人権認識は1907年の法律の時代のママではないでしょうか。

日本では女性の人権が奪われている
日本は、女性をめぐる人権状況がひどい。日本は世界でも珍しい国になってゆく。女性が権利を奪われている状況なんですよ。もっと多くの人にこの実態を知ってほしいと思う。35年前の作品が日本ではふるくないのは、この実態を知らない人が多いからです。裁判員制度では、以前より刑が重くなっているから何となくよくなっていると思う人が多いかもしれませんが、強姦をどうとらえるかについては、1907年から大きくは変わってない。

国連の指摘も無視
 女性差別については、国連の人権条約関係の委員会から、改めるようにと繰り返し言われているのですが、日本政府は気にもしてない。
うんざりするくらい言われているのに、その事実を国民に周知することもしない。たとえば、2009年・女性差別撤廃委員会の日本政府報告への総括意見では、親告罪の廃止などが盛り込まれたのです。2010年12月の第三次男女共同参画基本計画では、親告罪の廃止を含めて、強姦罪の見直しが取り上げられたが、実現にはいたっていません。2012年7月、内閣府・女性に対する暴力専門部会が強姦罪の問題を含む意見書を提出したが、これもそのままです。

私たちが行動し訴えることが重要
日本政府は、国連の委員会の意見などは全く気にしていない。私たちも政府を突き上げない。もちろん、少数の女性たちは運動をしていますが、多くの女性の声にはなっていない。それで女性の地位が下がっていくのです。2012年の世界経済フォーラムでの男女平等のランクづけで135か国中、日本は101位でした。昨年の選挙で女性議員が減ったので、今年は確実に落ちるし、そのことを大きくは報道しない。一面トップ記事になってもいいくらいなのに。私たちも真剣に怒らないし、メディアもそうです。「従軍慰安婦」問題は、歴史認識の問題といわれていますが、今の問題です。今の状況をどうするのか、何かきちんと行動し、ものを言うことが重要です。私たちがこれからどう行動するのか。行動できてないから大阪の人はあんなことを言う。日本の女性が怒ったからトーンダウンしたんじゃない。これはすごく大事なことです。